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甲子園

昔、ある私立の男子校の教頭先生とよく野球談議をしていました。

その学校は、当時、まだ甲子園に行けたことはなく、長年奉職されていたその教頭先生は一度でいいから、母校を甲子園で応援したいと思っていました。

学校は進学校ですが、勉強ばかりではだめだ、体も鍛えないといけないし、心も鍛えないといけない、というのでその学校はクラブ活動もなかなか活発でしたが、だからといって中学受験生だけで甲子園に行けるほど世の中甘くはない。

その学校は一貫校で、高校の募集は停止していますが、スポーツ推薦の枠だけはとっていました。

だから、中学である程度、野球の力もあり、学校の成績も悪くなければ、高校から入れる。その代わり、練習はしっかりしてもらう。

このシステムをとっている学校は決して少なくはありません。甲子園の常連校はまずスカウト制度をもっているし、全国から野球少年を集めてくるわけだから、それに対抗しようと思ったら、そのくらいのことはやらないと当然先生の夢はかなわない。

しかしながら・・・

毎年、いいところまでは行くのです。しかしベスト8とか、ベスト4あたりでやられてしまう。その後、教頭先生からなぜ、甲子園に行けなかったかを毎年、伺っていました。

「例えば、です。良いピッチャーが入ったとしましょうか。それも1年生と2年生に一人ずつ。で、一生懸命練習して、がんばってベスト4というのがまあ、ひとつの壁なのです。野球はチームでやるものですから、1人、2人が良くたって、そううまくいくもんではない。全国の野球少年たちが、あそこに行って、俺はプロを狙ってやろう、ということにならないといかんわけですが、本校はそういうレベルではない。まあ、毎年奇跡を願っているだけですが。しかし、です。今年の予選も良く生徒たちが応援に行ってくれました。やはりこういうイベントがあると愛校心というのは育つ。ありがたい話です。」

教頭先生のその満足そうな顔を、この時期よく思い出します。

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強くない運動部

その学校は、硬式野球部に力を入れていました。

学校の名前を世間に知らしめる、ということで言えば、甲子園に出場することが結構インパクトのあることなので、多くの私立学校が甲子園出場を目指します。甲子園に出場するチームの大半は全国から中学生のときに秀でた成績をもつ選手をスカウトして推薦入試を受けさせ入部させることが多いのです。したがってその学校も、高校の野球部で付属の中学から入ってレギュラーがとれる子はひとりもいません。

じゃあ、中学からの野球部選手はどうするのか?野球を続けるとすれば2つの道がありました。1つは、甲子園組に交じって練習する。しかし、まずレギュラーにはなれないでしょう。それでも、野球を続けたいと思えばそういう道を選ぶ。もうひとつが軟式野球部に入る。中学は軟式ですから、そのまま軟式を続けるということになります。

この学校の軟式野球はしたがって強くない。しかし、学校はこの野球部にもちゃんとグラウンドの使用機会を与えていました。

「硬式から文句は出ないのですか?」
「そんなことは絶対に言わせません。」
と強い口調で校長先生が言われました。
「もちろん、その日も硬式野球部は練習はしていますが、校外のグラウンドを借りています。学校のグラウンドが狭いので、やや遠いがそこでのびのびできればいいでしょう。しかし、それよりも軟式野球部が練習できなければ、学校としては意味がない。」
「・・・・」
「部活は強い、弱いだけではないのです。足の速い子がいれば、頭のいい子がいる。それぞれに子どもには強みがあるわけだが、ただ伸ばせば良いということでもない。下手は下手なりにスポーツは楽しまないと学校生活はおもしろくないでしょう?別に全国大会に出場するために部活動があるわけではないのです。子どもが自分の好きなことを続けられる環境を学校が準備する。当たり前のことです。強くない運動部もなければだめなのですよ。」

軟式野球部の子どもたちも、生き生きと練習するのを見て、なるほどなあ、と思った次第です。

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模擬授業

塾の会社に就職して、教壇に立つ前には当然、いろいろな研修があります。

最初は先輩の授業のビデオを見たり、あるいは見学したり、ということで全体像をつかんでいく。そしてテーマが与えられて、模擬授業になります。

うしろに担当の先生が1人、ないし2人ついて見ている。

子どもたちはいません。だから反応してくれる人はいないが、それでも黙々と説明をする。ジョークも少しは言わないと。まあ、そういう練習を積みます。

しばらくして検定があって、OKがもらえたら、そこからいよいよデビューになるわけですが、すでに学生アルバイトでも塾の講師をしていた人は比較的スムーズに進む、と思われるかもしれません。

ところがそうではない。むしろ、いろいろな塾でアルバイトを経験してしまった人はいろいろ癖がついてしまっている。

塾風というのがやはりあって、例えば良く注意されるのがあだ名。

つい子どもたちにあだ名をつけてしまう。先生がつけるあだ名は、子どもたちには受けることが多いが、本人が楽しいかといえば、そうではない。

ところが先生は子どもたちに受けたので悦に入ってしまい、あだ名を連呼したりする。

そのあだ名が通っている小学校にまで広まったりする、とこれは厄介な話になってくるので、それは絶対にしない、というようなルールがマニュアルの中には書いてあります。

しかし、こういう慣れた新人はマニュアルはあまり読まない。自分でもある程度自信もあるから、つい自分の好きなようになってしまう。

で、結果的に教壇を外される、という場合があるのです。

新人が教壇に立って、実際に受験指導ができるようになるまでには約2年から3年の経験は必要で、その検定に合格しないと6年生の指導はさせない、という塾もあります。

アルバイトが簡単に教壇に立つ塾もあれば、結構手間暇をかけて育てている塾もあるのですが、それはやはり子どもたちが一番良くわかるようです。

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