第28回 学校別対策を学習の優先順位にする理由

Pocket
LINEで送る

中学受験の生徒を教え始めてから、もう30年近くになります。
で、この間、いろいろな学校の学校別対策をやってきました。私がなぜ学校別対策を重要視するのか、ということについて、今回は少し掘り下げてお話してみようと思います。

たとえば麻布という学校を考えてみましょう。

麻布の競争率というのは、毎年あまり変わりません。だいたい3倍前後で推移します。
この3倍という数字はどうしてあまり変わらないのでしょうか。

私は統計的に見てここに収束するのだと思っています。麻布という学校がある地域、麻布という学校のスクールカラーを気にいる家庭、そして麻布という学校を狙おうという成績レベル、そういうものがトータルとして定員に対して3倍の受験生を毎年呼んでいるのだろうと思います。これがひとつの限界値(収束値)でしょう。

これがもう少しやさしい学校のレベルだと競争率は4倍から5倍になるでしょうか。やはりやさしいと思う分だけ、合格するかもしれないと思う層は増えていくことになるからです。

で、話を麻布にもどしましょう。

3倍の生徒の中で、たぶん何回試験を受けても合格するというのは全体の10%程度、すなわち合格者の3分の1だと思います。非常に安定的に入試に対して解答できるというのは、だいたいこのぐらいの割合なのです。模擬試験でも安定的に上位にいる子どもたちといってもいいかもしれません。この領域に達することができたら、それは見ていても安心でしょう。まあ塾の指導者としては、あまり調子を落とさなければいいと思うぐらいで、特に何か仕上げなければいけないという層ではありません。言葉は悪いが、どこの塾にいてもたぶん入っていくでしょう。

で問題なのは残りの3分の2の定員なのです。この層は良くて2回に1回合格できる、平均的にいえば3回受ければ1回は合格できるという層なのです。つまり、その1回が入試本番でなければならない。

同じ学校の試験を3回も同じレベルで受けられることはありません。二次募集、三次募集になってくれば、当然難しくなるでしょう。だからいかにその1回を本番にもってこれるか、言い換えれば本番がその1回になるかを考えていかなければならないのです。

では、子どもたちが12歳という学齢で、もっとも試験に当たる方法は何なのか?といえば、その入試傾向になれるということ以外にはありません。記述が出るなら、記述を書きなれておけばいい、難問が多いのであれば、その中でも取れる問題をしっかり探して部分点を積み重ねていけばいいのです。解きなれているからこそ、力を発揮しやすくなるということですね。

中学受験の本質が中学2年までの先取り学習である以上、すべてを網羅することは子供たちにはなかなかできません。だからこそ、当たりやすくするためには、「出題されそうな問題」に数多くあたり、その中で自分の取れる点を増やしていく工夫をするのが一番効率的になるのです。

ところが、最近の入試対策ではすべての子供たちが同一のカリキュラムを学習するのが当たり前になってきています。そうなると、すべてをこなせる子に勝てるはずがないのです。
しかし入試は「すべてが出題される」わけではありません。すべてをこなすのが基本的に難しいのだから、何を優先順位に学習をすすめていくか、戦略が必要です。その優先順位がまさに学校別対策なのです。

私はよく5年生の保護者のみなさんに、「成績を見ないで」第一志望を決めることをおすすめします。

成績を見てしまうと「あ、無理かも」と思うのが大人なのです。それではお子さんの「理想の学校」を選ぶことはできません。成績は伸ばせばいいし、言葉は悪いが「当たれば」いいのです。(その試験ができればいいという意味で、予想した問題が出題されるという意味ではありません。)

この子の可能性はこういう学校なら伸ばしていける、そう感じることができるのは保護者の方が一番です。だから純粋に教育環境という目でまず目標を見つけてほしいのです。そして、それが決まったら後はいかに合格させるか、まさに戦略を立てる必要があるのです。

みんなの受験対策がワンパターンになっているのだから、実は戦略的に受験を進めれば案外、効率よく合格できるのではないでしょうか。今の子どもたちの受験勉強にはムリ、ムダが多いと思います。これは受験準備が塾に依存する率が高くなったのが原因です。中学受験は最初、塾ではなくてテスト会が中心でした。テストを受ける、そのために自宅でいろいろな準備をする、家庭で学習するということが中心だったのですが、それが塾に依存するようになった。その結果として、子どもたちにはいろいろなニーズがあるのに、ワンパターンの学習方法が突き進められているというのが現状でしょう。

それを自分で判断できる子どもたちではないのです。やれといわれれば、やるしかないと思うのが10歳から12歳の子どもたちだけに、保護者がその分をフォローしてあげなければいけないのではないでしょうか。

Pocket
LINEで送る