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早すぎたスタート

 A君とB君は二つ違いの兄弟です。A君、B君ともある私立小学校を受験しましたが、兄のA君は落ち、弟のB君は合格しました。弟のB君が合格した後、お母さんは何とかA君もB君と同じ附属の中学校へ入れたいと考え、小学校2年生からある大手塾に通うことになりました。最初のうちは、お母さんもA君の勉強をしっかり見ていたのでA君の成績はトップクラスでした。しかし3年生、4年生と学年があがっていくうちにA君の成績は下がりはじめ、5年生になったら、何と真ん中より下になってしまったのです。

お母さんはあせりました。

個別指導、家庭教師、いろいろなことをやりましたが、成績は下がるばかりです。これではB君と同じ学校にいれられない。そこで私共に相談にこられたのです。A君にも来てもらって、問題を解いてもらいました。簡単な問題は、すぐ解いてしまいますが、やや難しくなるとすぐあきらめてしまいます。
「あれ、もう少し考えてみたら?」
「いえ、僕には無理です」
 なかなか前に進みません。 
なぜ、A君の成績が下がったのか、だいぶわかってきました。授業が終わってからお母さんとこんなお話をしました。

「お母さん、スタートが早すぎましたね」
「え、そうなんですか?」
「2年生や、3年生では塾に通う生徒は少ないでしょう。だから成績も良かった。でも4年生からあそこの塾は生徒がふえるはずです。5年生になればもっと多くなる。だから相対的にいえば彼のポジションは下がっていくはずですね。できる子が入ってくるわけだから」
「はい」
「その子たちに伍していくためには、それなりに勉強もしなきゃならないわけですが、いままでがんばってきてすでに彼は疲れているし、また自信もなくしてしまっています。だから意欲がわかない。何とかしてやろうという気力がでてこないのではないかと思います」
「どうしたらいいでしょうか?」
「まずは自信をつけてもらいましょう」
A君に塾を変えてもらいました。そして、自分のできることは何かということを確認する作業をはじめました。そのとき「ここまではできるね」とほめることです。いままで「できない、できない」と思っていたので、彼は元気を出すことができました。
 しかし残念ながら弟の学校には行けませんでした。ただ他の大学附属の中学に無事進学できました。

 小学校受験を経験されて、そこで残念だとまたすぐ塾を探して始めてしまいがちなのですが、次は6年後です。一度、リセットした方がいいでしょう。親も子も結構大変になってしまいますから。

 

学校はブランドで選ばない

 学校選択にも流行があります。景気があまり良くなかったころは、大学受験の面倒を良く見てくれる学校に人気がありました。中学や高校での塾代を節約できるところが良かったのです。しかし景気がよくなると、ブランドとして聞こえの良い学校に人気が集まります。麻布、開成、駒場東邦、桜蔭、女子学院、雙葉、慶應、早稲田などはもちろんですが、学校がどこにあるかということも大きく影響するようです。そのために学校名に響きの良い地名を加えて改名する学校も出てきました。田園調布学園(前校名・調布学園)や広尾女子(同・順心女子)などはその例でしょう。また高輪(高輪駅)や渋谷学園渋谷(原宿駅)など都心にある学校もなかなか人気があります。交通の便がよくなって、人気がでてきたところもあります。私立は生徒が集まらなければ経営が成り立たないので、募集に関してもいろいろな手を考えます。学校のイメージを良くするという意味では建物にも力が入っています。食堂を完備して食べ盛りの生徒たちが十分に満足できるように気を遣っていますし、お母さんもお弁当を作らないで済むので喜ばれているようです。

 学校の内容については、十分に調べておく必要があります。たとえば、実際にその学校の英語の授業は何をやっているのか、知らないで入れてしまう方が多いのではないでしょうか。もちろん各校とも教科や指導内容の充実には力をいれていますし、土曜日に授業をやる学校のほうが多いでしょう。

 英語に力をいれている学校は多くなりました。たとえばプログレスという特別な教科書を使っている学校も少なくありません。ただプログレスはすぐ過去形が始まるなど、独特なカリキュラムになっている分、文法がわかりにくくなる傾向があります。その点を学校側が理解して、別に文法の授業を行っていれば良いのですが、そうでない場合は、かえって英語が不得意になる可能性があります。

 また独自の教科書や独自のシラバス(講義予定表)で進んでいく学校もあります。英語ではアメリカやイギリスの教科書を使う先生もいますから、進んでいくうちに英語がわからなくなったという生徒も出てきます。オリジナルの教科書を使っているところもあります。ある学校では、オリジナルの教科書に解答がついていません。もちろん授業で先生が解説をしてくれるので、その授業をきちんと聞いていれば、問題はないのです。ところがそれを聞いていないと、期末試験では大変苦労します。学校は自分で問題を解決すべきだと考えていて、私はこの考え方はとてもよいと思います。しかし、ただ甘やかして、親がいろいろなことをしてあげた子どもにとっては大変つらい学校になるでしょう。そのことに親が気づいていなければならないのです。

 学校がブランド化するにつれて、その学校をただ「よい学校」だと思い込んでしまう傾向が親子ともに見られるようです。しかしせっかく合格したにもかかわらず途中でやめてしまった子もいます。ただブランドにあこがれていただけで、本当に学校として見られていなかったのかもしれませんね。

 ですから、学校をブランドとしてみるのではなく、子どもを通わせていいのか、本当に自分の子どもに会うのかをしっかり考えておくべきでしょう。

高望み傾向

 ここ数年の入試で男子は、偏差値50以上の学校に3分の2の生徒が出願しています。もともと中学受験は子どもたちが自分の学力で受ける最初の入学試験ということもあり、どうしても高望み傾向が出てくるのですが、その状況は変わっていません。というよりは、最近はさらに拍車がかかってきたかもしれません。男子の場合は学校の数も女子に比べて少なし、だめなら高校受験という考えもあるからでしょう。

 例えば合格可能性が20%だったとして、受験するかどうか、というのは悩ましいところです。

 というのも入試に20%というのはありえない。合格か、不合格か、それだけです。したがって単純に確率の問題で考えれば、5人に1人は受かることになるわけだから、その1人になるのか、それとも落ちる4人に入るのか、ということになります。

 関東の入試では慶應中等部が2月3日に動いてから、2月1日から3日までの3日間入試という色合いが強くなりました。その貴重な1日に対してとるリスクとしては確かに高いと言えるかもしれません。が、一方で最初から狙って、学校別対策までやってくると、直前に落とすということはなかなかしんどい部分もあります。

 私は前から第一志望は変えず、安全圏はきっちり数字とおり、というお話しをしてきました。

 中学受験の場合、保護者のみなさんにも夢があるし、どうしても志望は高くなるでしょう。それ自体は大きな問題ではありません。狙うところは狙う、抑えるところは抑える、メリハリがしっかりしてればそれでいいのです。ただ第一志望に引きずられてしまって全部、実力以上の学校を受けてしまうことはあまり感心しません。

 中学受験は短期決戦ですから、ある意味勢いが大事です。しかも受験しているのは12歳の子どもたちですから、精神的にタフではありません。不合格が続けば、本人の力が出ないケースが考えられますし、逆に勢いがついてしまえば、波に乗って実力以上の力を発揮してくれることもあるでしょう。だから合格することを大事に考えおかないと戦略としては失敗です。例えば1月校で、行きたい学校に入ってしまえば、これはこれで勝負という面も出てくるでしょうが、そうでない限り2月1日から3日まで自分の実力以上の学校ばかりを受けるということは良い選択とは言えないでしょう。

 もちろん受験する学校にはご家庭なりの考え方があるでしょう。あるレベルの学校以上しか受けない、もしだめなら公立に進めばいい――これもひとつの考え方です。本人を含めてそういう考え方で臨むのであれば、それはそれでよいと思います。

 問題は、受験しているうちにだんだん子どもがかわいそうになってくるご家庭のケースです。あわてて受験できる学校を探してみる。でもその学校の対策をしているわけでもないし、本人もがっかりしているのでなかなか合格できない。かえって自信をなくしてしまうかもしれません。これはあまり良い受験法とはいえないでしょう。

 それにあまり知らない学校に入った後、その学校のことがいやでまた高校受験に回る子どもたちも少なくありません。一時の感情に左右されるよりは、最初からのプランを押し通した方が最終的には良いということが多いようです。

 だから事前の準備が非常に大切なのです。

 受験校の選択については保護者の判断が非常に重要になります。止めるべきはしっかり止めるべきだし、狙うところはしっかり狙っていい。その意味で、中学受験は親と子がいっしょにがんばらなければいけない受験であり、実際の結果もそのよしあしで大きく左右されるといってよいでしょう。