2022年筑波大駒場の問題です。
つぎの文を読んで、あとの1から6までの各問いに答えなさい。
2021年2月、菅首相(当時)は内閣官房に「孤独・孤立対策室」を設置し、孤独・孤立対策担当の内閣府特命担当大臣を任命しました。設置の背景には、「社会全体のつながりが希薄化している中、新型コロナウイルス感染症の社会的影響が長期におよび、孤独・孤立の問題がいっそう深刻になっている」という認識があります。つながりの希薄化といえば、2010年には「無縁社会」ということばが報道番組で用いられ、その年の流行語となりました。孤独・孤立の問題は感染症の影響で一時的に生じたのではなく、ずっと以前から静かに進んでいたのかもしれません。実際、特に首都圏に住んでいる人の中では、隣近所に住む人の顔や名前を知らないこともめずらしくないでしょう。地域社会の変容だけでなく、家族のあり方や労働環境の変化も、現代の孤独・孤立問題につながっています。また、近年では、就職氷河期のあおりを受けた中高年のひきこもりや、ヤングケアラー(家族の世話を日常的に担う18歳未満の人)の孤立が広く知られるところとなりました。このように長期的な背景があることから、孤独・孤立対策室の体制は岸田内閣にも引き継がれています。
孤独・孤立が社会問題化しているのは日本だけではありません。イギリスでは、2018年に、世界に先駆けて「孤独担当大臣」が創設されました。孤独を社会的に解決すべきとする議論を先導したのは、2016年に暴漢の襲撃を受けて亡くなったショー・コックス議員です。彼女は、選挙活動で地域の家々を訪問する中で、孤独・孤立を抱えている人が多くいることに気づきました。コックス議員の悲劇的な死去のあと、政党の違いを超えて孤独問題への関心が高まり、「孤独は隠れた流行病」という認識が広がっていきました。以前から、イギリスでは社会問題に取り組む様々な慈善団体が活動しており、政府はそれらの民間団体への支援を充実させることで対策を進めています。個人の感じ方の問題とみなされがちな孤独・孤立を社会問題として位置付けたイギリスの取り組みは、日本をはじめ世界の先進国で注目されました。
孤独・孤立は、なぜ社会全体で解決すべき問題なのでしょうか。イギリスでは、孤独・孤立がもたらす健康への悪影響や経済的な損失の大きさが調査を通して明らかにされてきました。 しかし、問題はそうした数値で測れる側面だけではありません。ヨーロッパ諸国では、社会とのつながりを失ってしまった人々の社会的包摂(ソーシャル・インクルーション)が課題とされてきました。社会的包摂とは、多様な困難を抱える人たちを、社会のメンバーとして包み込んで共に生きていくことをめざす理念です。この理念は、社会から取り残されがちな人たちが、単にお金や物資の支援を受けるだけではなく、社会の中に自分の居場所と出番を確保することを求めるものです。日本でも、この10年ほどの間、社会的包摂と関わる政策方針が検討されています。また、日本では、数々の被災の経験から、地域社会における人と人とのつながりの意義が見直されてきました。ふだんから住民間のつながりがある地域では、人々がお互いを信頼して助け合うことができ、災害への備えや対応を効果的に行うことができると考えられています。
社会問題としての孤独・孤立に対して、政府はどのような取り組みができるでしょうか。まずは、政府が手をさしのべるべき、本人が望まない孤独・孤立をどのように把握していくかが課題となります。明確に定義を決めて支援対象を選別するほど、支援から漏れる人たちも多く出てしまうため、実態の把握をもとによく検討していく必要があります。日本政府はさしあたり、孤独・孤立の実態を全国で調査するとともに、関連する活動を行う民間団体に財政的な支援を行う方針です。たとえば、子ども食堂やフードバンクのような民間の活動は、物資の支援だけでなく、孤独・孤立に悩む人を支援者とつなぐ意味ももっているのです。もちろん、民間団体を頼ってばかりではなく、孤独・孤立と結びつきやすい生活難の状況を解消するために、政府が経済的支援を進めることが対策の基盤となってきます。
いくつかの調査によると、日本人は「人に迷惑をかけてはいけない」「助けを求めると迷惑なのではないか」と感じる傾向が強いようです。いま孤独・孤立が社会問題としてとらえ直されるようになったことは、個人の「自助」を強調する傾向に一石を投じる変化といえるのかもしれません。新たな社会問題にどのような取り組みをしていくべきか、これからの動向に注目しながら考えていきましょう。
1 日本における新型コロナウイルス感染症の社会的影響についてのべた文として正しくないものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
ア パートやアルバイト、派遣など非正規雇用の労働者が大きく増えた。
イ 政府の歳出が大きく増えた。
ウ 東京都と他の道府県との人口移動で、東京都の転入数が転出数を上回り続けた。
エ インターネットを用いた通信販売事業の売上が伸びた。
オ スマートフォンの位置情報のデータ活用が進み、そのデータの一部が政府に提供された。
2 孤独・孤立の背景にある地域社会の変容、家族のおり方や労働環境の変化について、考えられる説明として適切でないものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
ア 町内会や自治会など住民組織に加入しない人が増え、地域の人といっしょに活動する機会が減った。
イ 未婚化か進行したため、核家族が全世帯の半数を下回るようになった。
ウ 人口の多い世代が高齢化したために、高齢者の単独世帯(一人暮らし)の数が増加した。
エ 共働き世帯が減少し、家庭の外で働きながら人間関係を築く機会が減った。
オ 長期の雇用を維持できない会社が増え、雇用の形が多様化したために、会社や同僚とのつながりが弱まった。
3 日本の選挙のしくみや選挙活動についてのべた文として正しいものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
ア 選挙で投票する権利は原則として満18歳以上の国民にあるが、学生である高校生はその対象ではない。
イ 選挙当日に用事がある人が事前に投票できる制度や、仕事での滞在先や入院先などからでも投票できる制度がある。
ウ 候補者や政党は、テレビなどでの政見放送を通して、意見や考えを有権者にうったえることができる。
エ 選挙期間中に候補者が家々を訪問することが主な選挙活動となっている。
オ 駅前などで行われる街頭演説では、候補者本人以外の人が演説することは認められていない。
4 本文で説明した社会的包摂の考え方を具体化した政策として最も適切なものを、つぎのアからオまでの中から一つ選び、その記号を書きなさい。
ア 生活が苦しい人に対して、生活保護制度によって生活資金を給付する。
イ 臨時経済対策として、全国民に対して一律に10万円分の商品クーポン券を給付する。
ウ ホームレスの人を保護し、無償または安価で賃貸住宅を提供する。
エ 震災避難者を近隣の自治体で受け入れ、仮設住宅や生活用品を提供する。
オ 障がいのある人がやりがいを感じられる仕事に就けるよう支援する。
5 災害への備えや対応に関連してのべた文として正しいものを、つぎのアからオまでの中からすべて選び、その記号を書きなさい。
ア 豪雨災害の際、行政が防災情報を発信するものの、住民の避難行動につながりにくいことが課題となっている。
イ 災害救助法にもとづき、被災地の周辺自治体の長は、災害ボランティアを組織して派遣しなくてはならない。
ウ 被災した地域に自衛隊が出動し、逃げ遅れた人の救助や避難所での支援などの活動を行うことがある。
エ 東日本大震災の復興をすみやかに進めるため、東日本大震災復興基本法にもとづいて復興庁が設立された。
オ 東日本大震災の復興のための財源を確保することを目的として、2度にわたって消費税率が引き上げられた。
6 社会問題としての孤独・孤立に関連してのべた文として正しいものを、つぎのアから力までの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
ア 日本では、厚生労働省が主導して省庁の壁を越えた対策が進められようとしている。
イ イギリスは、孤独・孤立問題を専門にする支援団体を国が新たに立ち上げていくことで対策を充実させている。
ウ 子ども支援や貧困対策など、様々な分野で活動している民間団体と政府・自治体との連携が求められている。
エ 孤独・孤立は心理的な問題であるため、貧困対策などの政策とは切り離して考えていく必要がある。
オ ヤングケアラーは勉強への取り組みや将来の進路が制限されることが多く、生き方の輻がせまくなることが問題となっている。
力 ひきこもりは青少年に固有の問題であり、望ましい人格形成のために、学習だけでなく対人関係の支援が必要とされている。
【解説と解答】
今年は各校とも、時事問題、現代社会への取り組みというテーマの問題が増えました。何らかの話し合いがあったのかもしれません。
もちろん社会の知識は必要ですが、現代の社会を小学生なりにどうとらえていくのか、という視点での勉強も必要になってきています。
1 新型コロナの影響です。雇用は失われていて、東京都からの転出数が増えてきました。
(答え)ア・ウ
2 核家族は半分を下回っていません。核家族世帯が28,393,707世帯(一般世帯数の57.9%)になっています。共働き世帯は1247万世帯。専業主婦世帯は566万世帯になっています。
(答え)イ・エ
3 期日前投票制度があります。また政見放送で、候補者や政党の意見をうったえることができます。
(答え)イ・ウ
4 社会とのつながりがなくなってしまった人に対する方策ですからオ。
(答え)オ
5 防災情報をどう届けていくか、避難行動にしっかり結びつく対策が求められています。
(答え)ア・ウ・エ
6 民間団体と政府・自治体の連携は不可欠です。ヤングケアラーとは一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているような子どもたちのことをさします。
(答え)ウ・オ
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