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第29回 中学受験は親の意思

中学受験をしていると、途中で子供たちがあまり勉強しなくなる時期が出てきます。
今の中学受験準備はかなり長期化していて、3年生からスタートしているお子さんも少なくないでしょう。そんなに長期間、いろいろなことをがまんするのは大変なので、あまり勉強に熱が入らなかったり、第一次反抗期がいっしょになって「勉強しない」状況が出てくるのです。

そこであんまりがんばらないなら
「塾はやめようか?」
という話になるでしょう。
「お金もかかるし、やらないなら別にいいけど」
ということをお話になるお母さんが多いのではないかと思います。
これに対して素直に「うん、やめる」という子はまずいないでしょうね。子どもたちは塾に行き始めた理由は「親がそれを望んでいる」ということは理解しているのです。で、小学生のうちはできるだけ「親の意に沿おう」と思うものなのです。

子どもの精神の発達でいうと、四年生のころに第一次反抗期を迎え、中学二年くらいに第二次反抗期を迎えます。第一次反抗期というのは、それまで生きていくために親に頼っていたものが、少しずつ自分のやりたいこと、したいことが出てきて親の方向に従わない時期です。ただ第二次のように自分でいろいろできるという自信はありませんから、単なるわがままといえなくもないでしょう。ただし、成長の過程でこのステップは大変大事です。自立の一歩と考えていいでしょう。

ただ、この時期は「自分で生きていく自信」はまったくありません。だから親の保護が必要だと感じています。ですから子どもたちはもっと根本的な「親の意思」に対して従わざるを得ない部分があるのです。

「いいのよ。別に。高校受験でも。」
と親が本当にそう思うのなら、とっととやめてしまうことです。子どもに聞いたら答えは決まっています。命の危険でもない限り、きっと子どもたちは「やる」と答えるでしょう。そういうものなのだということを理解している方はあまり多くないと思います。

しかし、小学生のときは、正確な判断は子どもだけではできないのだと思ってください。だから親が決めないといけないのです。高校受験にするか、中学受験にするかは、子どもが言い出そうと、親が言い出そうと、最終的に決めるのは親であって、子どもではない。このまま進めてもいい結果が出ないなと思ったら、親が撤退の意思を決めないと、結局ずるずる行くだけの話です。

ですから志望校についても、同じことが言えます。どの学校がいいか、という判断は基本的に子供ができるものではありません。男子校がいいとか、共学がいいとかいうのは、単なる嗜好の問題であって、子供の性格にあって、子供の可能性を伸ばせる学校はどこなのか?という判断は親がするものなのです。だから、親が一生懸命、学校選びをしなければならないのです。

中学受験はあくまで親の意思でするものです。その点を踏まえた上で、お子さんといっしょに受験勉強を進めてほしいと思います。

第28回 中学受験の範囲はなぜ増え続けるのか?

中学入試で出題される範囲は近年、大分広がってきました。本来は小学校卒業程度の学力を試せばよいのですが、それではなかなか差がつかないので、問題は難しくなり、また広くなってきています。例えば社会で世界地理の知識は、本来は指導要領の範囲外です。ですから世界地図を見せてミャンマーの位置はどこだ?という問題は、指導要領の範囲からは外れているわけです。しかし各校の入試問題を見ていると範囲外の問題が良く出題されています。前述のミャンマーの問題でいえば、やはりスーチーさんの問題が話題になったときに出題されているわけですから、小学生がどのくらい今の社会を認識しているのかという点でみれば、あながち外れというわけにもいかないでしょう。

 では、入試の範囲はいったいどこまで広がっているのかといえば、中学2年ぐらいまでの範囲は楽に入っています。数学でいえば入らないのは、二次方程式、二次関数、平方根、円などの中3範囲のみではないでしょうか。したがって、中学受験の勉強というのはある意味中2までの先取り学習なのです。国語でいえば、高校受験で出題される物語文、説明文、論説文などは同じ文章が中学受験で出題されることなど当たり前ですし、歴史にしても地理にしても、中学で学習する程度の範囲は子どもたちが現在勉強していることなのです。

 つまり今の受験生は小学校の4,5年生あたりから、中学2年までおよそ4年分の内容を一気に勉強していることになります。だから、ついていくのが大変なのです。しかも最近はさらに塾のカリキュラム進行のペースが速くなりました。以前は割合は5年生の秋、比は5年生の後半から6年生にかけて習っていたのですが、今は半年早くなってきています。したがって、さらに子どもたちの負担は大きくなりました。かつ、また処理する問題が非常に多い。これは「たくさんの宿題やプリントを出す」ことが「塾の熱心さ」の象徴になっているからでしょう。しかし、実際にこれだけの量をこなすということ自体が子どもたちには難しい。宿題を終えるだけで精一杯で、本当に自分がやるべき勉強ができていないというケースは少なくありません。

 たくさんの範囲を、たくさんの問題とともに処理する先取り学習、これが中学受験の本質なのです。中学受験の問題は年を経るごとに難しくなってきています。その理由は競争率の激化です。あまりたくさんの子どもたちが受験するのでなければ、問題はさほど難しくなくてもいいでしょう。しかし、現状の関東圏の平均競争率は約4倍。最終的に5人に一人が1校も合格することなく、公立へ行かなければならないのです。しかも大学受験をさせる中高一貫校では、すでに多くの学校が高校での募集を停止しています。なぜそうするのか、中高一貫校自体が先取り学習をして、大学受験に向かっているからです。指導要領の変更にともない、中学自体のカリキュラムは大きく減少しました。しかし、大学受験に必要なカリキュラムは決して減っているわけではありません。ゆとり教育の弊害は実は、高校でのカリキュラムの密集化でもあるのです。

 私が学生の頃は三角関数は、中学で習いましたし、二次関数も平気で頂点が原点以外にありました。しかし、現在、三角関数は中学から姿を消し、二次関数は頂点が原点を動きません。したがって、その分の学習がすべて高校に移ってしまっているのです。これを高校から学習させたのでは、間に合わないし、十分な大学受験の対策ができるわけではないので、一貫校はいわゆる中学の課程を中1、2で終わらせて、中3で高1、高1で高2というように1年間先取りできるようにカリキュラムを組んでいるのです。そうなると、高3では1年間、大学受験に向けた学習ができます。今首都圏の、有名大学の合格者の6割近くが中高一貫校の卒業生で占められるのは、このためです。で、これらの一貫校が高校1年から新たに募集してしまうとどうなるでしょうか?付属中学から進学してきた子どもたちは、すでに高1の勉強をしてしまっている、新たに高校で迎える子どもたちはまた高1の内容から勉強させなければならない。これは学校の教育資本を無駄に使ってしまう可能性があります。それで、高校募集を停止して、中学からすべての募集枠を使ってしまうのです。

 一貫校もまた先取り学習が中心ですから、中学受験においても先取り学習ができる子どもたちを入学させたい、これが本心でしょう。その結果として、中学2年生程度までの問題は、小学生でもできるという視点から入試問題が作られるようになったのです。

 今の中学受験はその意味で、子どもたちに実に多くの負担を強いていることになります。しかも高校、大学が全入時代になったといわれる現在、5人に1人が一校も合格しないということになれば、俄然、その対策は量も多く、スピードも速いという内容になってきているのです。

これをただ、塾と子ども任せにしてしまうと、子どもたちの危険信号がわからなくなってしまいます。子どもが何をどう勉強しているのか、まずはお父さん、お母さんがしっかりとつかんでおく必要があるでしょう。

第27回 重要な1,2年生時の準備

 最近は塾に通う年令がだんだん早くなってきました。1年生や2年生から塾に通い始める子供たちも決して少なくはありません。しかし、本当は塾に通うよりも大事なことがあります。それは自学自習の習慣をつけるということです。塾に通うことが、このきっかけになるのであれば、それはそれで大変効果があるでしょう。しかし最近の保護者のみなさんの話を聞いていると、「塾に出しておけば大丈夫」という考えがあるようです。それは決して正しくはありません。

 低学年のときに最も大事なことは、四則計算の練習や漢字の練習などを地道に繰り返すことなのです。ただ、子どもたちはまだ幼い分、指導者がほめてあげさえすれば、この地道な練習にも積極的に取り組んでくれます。ただ、最近の小学校ではあまりこの地道な作業を繰り返すことをしなくなりました。

 陰山先生の百ます計算は、大変優れたメソッドです。まず、子どもたちの基礎力をしっかり身に付けるために、1枚の表を埋めるという作業をすることで、繰り返し計算の練習をさせていることです。ただ、これも指導者が子供たちのモチベーションを十分に引き出し、かつ家庭でも繰り返し練習するということができなければいけないのです。

 家でもしっかり自分で勉強する習慣をつければ、そんなに早く塾に行かなくても中学受験の準備をスタートさせることができます。逆にそれができなければどんなに早くに塾に行かせても、結果として成功する確率は低くなるでしょう。

 ところが、1年生や2年生のときは、「まず遊べ」という議論が何となく優先されているように思うのです。これは間違い。むしろ1年生や2年生のときから、少なくとも1時間、家で勉強することが当たり前であるという習慣を作る必要があるのです。もちろん遊んではいけないという話ではありません。子どもたちはこの頃、遊びを通して、人との付き合い方やコミュニケーションの方法を学びます。したがって友だちと外遊びをする時間はとても大切なことです。ただ、最近は私達が子どものころと違って、外遊びをする空間が少なくなってきました。私が子どものころは、空き地もありましたし、ちょっと冒険に行こうとすれば、小さな森もありましたが、今の子どもたちにはそんな場所は与えられていません。したがって、だんだん引きこもりがちになり、子どもたちがテレビやゲームで内遊びをするようになってきているのです。これはあまり良い傾向ではないというので、文部科学省も子供たちの放課後の居場所を学校に置いて、小学校のグラウンドやその他の施設を使ってみんなで遊ぶことを奨励しています。これはこれでよいことだと思いますが、ただこの時間は徹底的に遊んでいるので、勉強するということはあまりありません。最近は学童保育も学校で一体となって行う自治体が増えてきましたので、そうなると放課後はすーっと遊んでいることになります。お母さんが帰ってくるころにはもうへとへとになっていて、勉強どころではない。宿題をあわててやらせて、今日一日がおしまい。ということになってしまっているケースが少なくないのです。

 しかしこれでは子どもに本来備わるべき基礎の力がつかないのです。先日あるお母さんから相談のメールをもらったのですが、やはり低学年のころ、漢字の練習をあまりしなかった。したがって今になって、不十分なところがいっぱい出てきている。しかし4、5年生になると、そういう反復練習はあまりやりたがらない。だから、なかなか漢字が書けないという相談でした。こういう場合、仕方がないので、何らかのモチベーションを持ってもらって漢字の練習をするしかありません。私は家族揃って漢字検定をお薦めしました。これはこれで家族で競い合うこともできるし、子どもが楽しく漢字の練習をするという意味ではひとつの方法ですが、実際には1年生や2年生で反復練習をする機会を使った方がよいのです。

 この頃の子どもたちは「できる」ということに対して大変敏感です。同じ漢字を20回書くということを課したとしても、20回書こうと思えば、誰でも書けるわけですから、みんながんばります。その結果をとにかくほめる、「よくやった、すごいねえ」と言ってあげることで、さらにやる気が増してくるのです。この機会を逃す手はありません。例えば1年生の漢字なんかは半年ぐらいまでで覚えられる子がいるでしょう。こういう子どもたちの意欲は、カリキュラムなんかで押しとどめる必要など何もないのです。どんどん難しい漢字を練習してもらってかまわない。漢字検定に挑戦するのも楽しい経験になるでしょう。

 中学受験で、入れたい学校に入れるためには、まず自分で勉強できるという習慣をつけていかなければなりません。そのためには基礎的な学力を低学年のうちにしっかりつけておくことが必要なのです。これがしっかりできていれば、早くから塾に行く必要はありません。逆にこのことが出来ていないと、塾に行っても基礎がしっかりしていないために、勉強が遅れがちになったり、子どもが自信を失ってしまうケースがあるのです。

 働いているお母さん達にとっては、確かに大変なことではありますが、30分でもいいですから、子どもといっしょに勉強する時間を作ってあげてください。