今年の社会の出題は、現代社会を小学生がどうとらえるか、君たちはどう考えるか、というテーマで作られた問題が多くなっています。
社会というとこれまでは割と3分野(地理、歴史、公民)、しっかり覚えましょう、みたいな感じだったのですが、それとは多少次元が違う問題が見受けられました。なので、今年は社会も含めていろいろな問題についてご紹介していきたいと思います。
2022年武蔵中学の問題です。
みなさんはなぜ学佼で勉強をするのかについて、考えたことはありますか。日本国憲法第26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ぶ。義務教育は、これを無償とする」と定められています。憲法以外にも教育基本法などが定められており、学校での教育はこれらの法律にもとづいています。今日は、学校制度がどのように移り変わっていったのかについて学んでみましょう。
日本では明治維新後に、欧米にならって近代的な学校教育制度を整備し始めました。江戸時代にはいわゆる「読み書きそろばん」を教える教育機関や、藩が設置した藩校と呼ばれる学校もありました。また、儒学や蘭学などをより高度に学べる私塾も各地に存在しました。しかし、身分や性別に関係なくすべての国民を対象とする、国家の制度としての教育の仕組みは存在しませんでした。
明治政府は1871(明治4)年に文部省を設置し、全国に学校を開く準備を進めました。 1872年に教育に関する最初の法令である学制を発布し、まずは小学校を設置することに力を入れました。富国強兵をめざす政府は、国の発展を担う人材を育てるためにも男女を問わず初等教育を普及させることが重要だと考えたのです。1879年には学制に代えて教育令を出しましたが、小学校を重視する方針は変わりませんでした。明治時代末までには帝国大学や高等学校などの上級の学校の仕組みも整えられ、大正時代には私立の大学や高等学校も増えていきました。
時期により制度や学校の仕組みは多少異なりますが、1947(昭和22)年に公布された学校教育法に基づく制度と、それまでとを大きく区別して、戦前の教育制度や学校を「旧制」と呼んでいます。旧制の学校が現在と大きく異なるのは「複線型」の仕組みであり、義務教育とされた小学校を卒業した後は原則として男女が別々に学ぶ体制であったことです。
小学校後、さらに上級の学校を目指す場合、男子は中学校や高等学校を受験することができました。高等学校は帝国大学に進学するための学校でした。この他にも男子が学べる学校は、教員になるための高等師範学校や、医師になるための医学専門学校などさまざまな専門学校や大学がありました。学校や資格試験制度を通じて、国の役人になったり、裁判官や弁護士、医師になったり、企業に就職したりする機会が得られたのです。しかし、女子の進路は大きく制限されていました。男子の中学校に相当する高等女学校以上の学校としては、一部の大学が門戸を開いていたものの、原則として女子のための高等師範学校や専門学校にしか進学できなかったからです。高等女学校で学べる期間も中学校より短く設定されていたり、教育内容も法制及経済(のち公民科)などの科目が設置されなかったりしました。代わりに、中学では教えられない家事や裁縫などが設置されていました。ただ単に男子と女子が別々の学校で学んだというだけではない違いがあったことには注意が必要です。
とはいえ、男子であっても中学校・高等学院・帝国大学というコースを歩んだのはごく一握りの人びとでした。時代によって差はあるものの、多くの人びとにとっては義務教育の小学校、あるいは小学校後にさらに数年間学ぶことができた高等小学校が最終学歴であり、高等学校に進学できたのは同年齢の100人に1人程度でした。形式的には生まれに関わらず、すべての人びとが小学校に通うことができ、男子であれば上級の学校に進学し、個人の努力や能力に応じてより高い社会的地位を目指すことができることになっていましたが、実際には、生まれた家の経済力も進学や社会的成功が可能かどうかに大きく関わっていたのです。上級の学校になるほど学校の数も限られたので、地方出身者にとっては、学校がある都市までの距離も進学の壁となっていました。
第2次世界大戦が終わり、日本国憲法が施行されると、憲法の精神にもとづいて新たに教育に関する法令が出されました。憲法で教育を受ける権利が保障されたのは最初にのべた通りですが、教育基本法では国民は性別や社会的身分、経済力や信条にかかわらず、教育を受ける機会が与えられることが明らかにされました。能力があるにもかかわらず、経済的な理由により学校で学ぶことができないものに対しては、国や地方公共団体が、学校で学べるようにしなければならないことも定められています。複雑だった学校の仕組みも、学校教育法によって小学校6年・中学校3年・高等学校3年・大学4年を軸とする「単線型」となり、このうち小学校6年間と中学校3年間が義務教育とされました。
戦後の復興と経済成長が進む中で人口も増加し、それにあわせて学校も増設されました。都市部では多くの労働力が必要とされ、地方の中学を卒業したばかりの若者たちを集団で就職させることも行われ、こうした若者たちは「金の卵」と呼ばれました。その後しだいに労働力の中心は中学を卒業した人びとから、高校を卒業した人びとへと変化していきました。経済的に豊かになった人びとの間で教育に対する熱意が高まっていくと大学への進学率も上昇し、旧制のもとではごく少数であった大学生もめずらしくはない存在になっていったのです。こうした大学進学志向の高まりや社会の要請にこたえるため、大学はどんどん増えていきました。
現在では義務教育ではない高校への進学率はほぼ100%に達し、大学への進学率も60%近くになっています。しかし、大学進学については、そのうちわけを見てみると、男女や地域によって、進学率に差があることがわかります、また、教育に対する熱意の高まりは他方で都市部を中心に受験を通じての中高一貫教育への志向を強めることとなりましたが、それは受けられる教育が家庭の経済力に左右されることになりかねません。
憲法では国民は誰であれ、能力に応じて教育を受ける権利が保障されています。それにもかかわらず、こうした差が生じるのはなぜでしょうか。学校に通い、教育を受けられることは当たり前と思ってしまうかも知れませんが、立ち止まって考えてみたい問題です。
問1 江戸時代に「読み書きそろばん」を教えた教育機関の名前を答えなさい。
問2 江戸時代の藩校や私塾に関する以下の問いに答えなさい。
(あ)次にあげる藩校があった場所を下の地図上の①~⑤の中から選び、記号を書きなさい。
ア 興譲館(米沢) イ 時習館(熊本)
(い)思想家の吉田松陰と関係の深い私塾を次のイ~ハの中から選び、記号を書きなさい。
イ 松下村塾(萩) ロ 適塾(大坂) ハ 鳴滝塾(長崎)
問3 問題文にあるように、学校制度の創設は明治政府がめざした富国強兵と深く関わっていましたが、学校教育は「強兵」とどのように関わっていましたか。考えられることの例を1つあげなさい。
問4 戦前の日本では、女性に対してどのような社会的役割が求められていましたか。問題文にある旧制の学校制度や教育内容から分かることを書きなさい。
問5 日本および諸外国の学校制度に関して以下の問いに答えなさい。
(あ)資料1のアはアメリカ、イはドイツの学校の仕組みを示したものです。日本の旧制の仕組みに近いものを選び、記号で答えなさい。
(い)学校卒業後の進路を考えた時に、単線型と複線型ではどのような違いがありますか。
問6 資料2は、関東地方一都六県の男女別大学進学率を示したものです。横軸は都・県内での進学率、縦軸は都・県外への進学率を示しています(縦軸の数値と横軸の数値を足したものが、その都・県の大学進学率を表します)。問題文にもある、男女や地域による進学率の違いについて、資料から読み取れることを書きなさい。
問7 平等に教育を受ける権利は憲法で保障されていますが、問題文にもあるように実際にはさまざまな格差があります。その格差の例を1つあげ、現在どのような対策が取られているかについて知っていることを書きなさい。
【解説と解答】
問1 寺子屋です。字に注意しましょう。
(答え)寺子屋
問2 米沢は山形県、熊本は熊本県ですから、すぐにわかるでしょう。吉田松陰は松下村塾。
(答え)
(あ) ア ① イ ④ (い) イ
問3 富国強兵で列強に伍すことのできる軍隊を作るためには、兵士の力をより強固なものにする必要がありました。
(答え)兵士は規則を守ったり、戦術を理解するなど行動を起こすのに必要な知識や学力が必要だと考えられたから。
問4 文中の男女の教育の違いから、女子に求められていたことを考えます。
(答え)女性は家事や裁縫ができ、家庭を支え子どもを育てる役割を求められた。
問5 ドイツは分野別にコースが違うことがわかります。
(答え)
(あ) イ
(い) 単線型の場合、卒業後に将来の職業などを決められるが、複線型の場合早くから専門教育が始まるので後から変更することができない。
問6
(答え)各都県ともに男子より女子の進学率は低い。また,東京都は男女ともに都内の大学へ進学する割合が高いが,他の六県はは全国平均にくらべても県内への進学率は低く東京に進学している可能性が高いことがわかる。
問7
家庭の経済力の差によって進路の差が起きたり、あるいは生まれた地域によって受けられる教育が違うなどの差が生まれています。それに対する解決策としては奨学金制度、女性が働きやすくするための支援制度、保育園の充実、男性の育児休暇などがあげられるでしょう。
(解答)家庭の経済力の差によって進路の差が起きている。その対策として奨学金制度を作ったり、女性が働きやすくするための施策として保育園の整備や男性の育児休暇の充実などが行われている。
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