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第8回 ネットで成績はあがるか?

■インターネットが広がり始めたとき、e-learningの可能性がずいぶん話題になりました。ところが最近はあまりe-learningに注目が集まらなくなったような気がします。いろいろ実験したり、サービスが始まったりしたけれど、あまり効果がなかったというのが実際のところではないかと思うのです。

■確かにインターネットで動画を動かしたり、先生がテレビ電話を使って説明してくれたりすれば便利なように思えます。しかしそれは実際に教えてもらうことが難しかったり、遠くにいる場合のことであって、すぐに先生に教えてもらうことが可能であれば、face to faceで教えるもらうことの方が効果があるのです。

■特に小学生は、モチベーションを維持するという意味において大学生や社会人が勉強するようにはいきません。大学生や社会人は、自分のスキルアップや資格をとるための動機がありますから、それなりにインターネットで勉強することは可能かもしれませんが、小学生は飽きてしまうので、つねに様子をみながら、声をかけていかなければならないのです。

■では、こんなにe-learningが研究されたのは、なぜでしょうか。教育はこれまで人的サービスの最たるものでした。その結果、塾や学習産業では人件費の比重が上がっていました。動画やインターネットはその部分を解決する手段として注目されたのです。しかしここまでいろいろな実験やサービスが行われて、人が直接教えるに比べてやはり実際の効果が少なかったと思います。(もちろん海外や、進学塾や学習機関がない地域では有効であったことは間違いありませんが。)

■ただ、インターネットやコンピューターがまったく学習に役に立たないのかといえばそんなことはありません。むしろこれから私は非常に大きな可能性が出てきたと思っています。ただしそれは、そういうシステムが直接生徒を教えるのではなく、教える方法をもっと効率化する、あるいは学習するテーマを有機的に結び付けていくという点においてです。

■アテネオリンピックで日本選手がたくさんのメダルをとったのも、実はこの解析力によるものだといわれています。むしろパソコンやインターネットを使って、いつでもどこでも最も必要な、効率的な学習方法を手にすることができれば、子どもたちがあんなに夜遅くまで学習塾に通う必要はなくなるはずです。

■ただこの分野の研究はまだまだ遅れています。日本人はどうも気合だ、根性だという感覚がまだ残っているので、勉強法や指導方法についての研究はそれほど進んでいないと思っています。しかし、これからデーターベースの進化やさまざまなテストデータの解析が進んでいくでしょう。これらの研究や実験が次に何を生み出してくれるのか、私は大いに期待しているのです。

(平成16年9月6日)

第7回 公立中高一貫校

■来年4月から都立の中高一貫校がスタートします。まずは台東地区中高一貫6年生校。母体となるのは白鴎高校です。2006年には目黒、文京、墨田、千代田、2008年には国際と武蔵野、2010年には中野、練馬、八王子、三鷹でスタートします。

■都立の地すべり状態に不満な石原東京都知事が行う都の教育改革の一貫で、昨年の都立学校群の廃止に続く、都立の復興策です。今回発表された台東一貫校の教育内容は、2学期制、45分7時間授業、英語によるプレゼンテーション、地域交流、習熟度別授業、少人数授業などこれまでの私立が培ってきたノウハウがちりばめられています。

■当然最初ですから、入試が必要になります。その入試問題のモデル問題が発表されました。4問発表されたのですが、そのどれもがこれまでの中学入試問題からはかけ離れています。記述式ではあるものの、例えば時計を使わずに昼と夜の長さを比べる方法を書けなどというものです。週刊誌で、今年の中学受験生に解いてもらったところ、けっこうさんざんな結果だったようです。

■こういうモデル問題で、これまでの私立中学の入試問題と同じような問題は出るはずはありません。当然、そこでの差別化を考えるだろうし、やはり塾に行かないとという気持ちにさせてもいけないのでしょうが、特別な問題を出そうとすれば、それに対応するのがまた塾ですから、私立も都立も受ける子どもたちにとっては負担が増すばかり。むしろ良い子を集めたければ、同じような問題を私立と違う日にしっかりやるべきなのだとは思います。

■ただ、都立の一貫校参入は良いことだと思います。私学関係者には民業圧迫という考え方が根強いものの、都立の中高一貫校は都立高校中心に編成されますから、ある意味都立高校改革の一環なのです。このまま都立の教育水準と私立の教育水準に大きな差が開くことは、決してプラスではありません。私立と都立がある意味、その教育内容を争ってこそ、水準が高まっていくだろうと思います。

■とはいってもまだまだ課題は山積みです。中高一貫校は都立高校を中心に編成されます。中学生の教育経験者がいるわけではありません。白鴎では今後、中学生対応のための教諭を採用していきますが、評価がでてくるのは少なくとも6年後、それまでに試行錯誤が続くことでしょう。

■せっかく新しい学校を作っていくのだから、いろいろな出口を想定してもらいたいと思います。今の学校は国内の大学ばかりを考えていますが、国際中学などは直接アメリカやヨーロッパの大学を目指すコースなどがあってもいいのではないかと思います。そういう差別化がしっかりできると、中高一貫校にもバリエーションが増え、それが私立の内容向上にもつながっていくのではないでしょうか。

(平成16年3月7日)

第6回 老教諭との囲炉裏端 

■40年を越える学校生活に今春終止符を打たれる老教諭から電話があり、二人で囲炉裏を囲むことになりました。先生は、長く募集活動をおやりになっていたので私もお付き合いが長くなりましたが、昔話に花が咲きました。

■「私学には、それぞれ建学の精神があり、そこから私学の教育が始まると思います。大学受験がどうのこうの、いう前にそれを伝えられなければ募集広報にはならない。」
私学は寄付活動から始まります。設立に際して寄付団体が寄付行為を行うことによって私学が生まれます。ですから、寄付を行うにあたってどういう学校をつくりたいのか、どんな教育をしたいのかがはっきり謳われているのです。もちろん時代がかわりますから、伝え方は考えないといけない。でも大学受験の実績の前にまず語らなければいけないことが、私学にはあるはずです。

■「塾の塾長が、学校の理事になりたがる人がいる。これはやはり線をわけておかないといけない。塾は塾で誇りを持つきだし、それは学校とは違う機能だと思わないといけない。」
塾は学校に生徒を送っているという気になってはいけないのです。送ってあげているという気になると、何かを間違えます。塾はビジネスですが、学校はビジネスではありません。学校は奉仕する部分があって成り立っているのですから、前提から違うのです。

■「校長が学校の偏差値を気にしないわけにはいかない。しかし、自分の学校が低いからといって、妙なコンプレックスを持つ必要もない。」
生徒が集まらない時期もあります。偏差値が低いから集まらないということも当然あるでしょう。だからといって、偏差値をあげることばかりに気がいっては、本来の本校の使命を忘れてしまいます。

■「宗教教育というのを、私学はことさら避けてきた感があるけれど、本当にそれで建学の精神を伝えられるのかという疑問がある。」
寄付団体が宗教団体である学校は多いのですが、その学校が宗教を前面に説明をするということはありません。宗教教育が行われている学校もありますが、あまり詳しく語られてはいないと思います。日本人は学校と宗教を戦後、切り分けてきた感がありますが、すべてを否定する必要はないのかもしれません。それよりも、現実に行われていることをすべて保護者や子どもたちに披瀝することの方が大事なのではないでしょうか。

■「行政と私学はけんかをします。ただ相手の方が強いから、負けることがあるわけですが、負け方も考えんといかん。今回は相手が悪い、でも負けたんだというのが伝わるように負けるんです。そのくらいの気持ちを持ってないと私学は守れません。」
指導要領を守る私学はあまりいません。当然、文部科学省などからは指導が入ります。しかし、だからいってすべて言われる通りにしていたのでは、当然私学の良さがなくなってしまうのです。こういう気概がある先生がおられるから、私学は、私学でありえるのです。

(平成16年2月22日)