第35回 学力低下

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■OECDの生徒の学習到達度調査の概要が発表されました。2000年度調査に比べて、かなりの低下が見られるという見解が多いようです。(2000年度調査概要はこちら。)15才の生徒を対象に学習到達度を3年ごとにみる調査です。日本の成績で言えば、数学的リテラシー6位、量領域11位、空間と形2位、変化と関係7位、不確実性9位となり、以前の調査に比べるとだいぶ順位は下がったようです。数学的リテラシーはちなみに2000年度調査では1位でした。

■ また読解力は2000年度調査では8位だったのが、今回調査では14位。 これだけみると、日本の子どもたちの学力は低下しているという指摘は間違ってはいないでしょう。ただ、数学分野で点数を上げた国を見ると韓国、香港、マカオ、リヒテンシュタインなど明らかにがんばっている国々です。数学的リテラシーについては2000年度調査で日本が557点、2003年度調査では534点です。全体的な流れは下を向いているということは間違いありませんが、点数にすると5%程度ですから、カリキュラムのなくなり方から考えれば、結構善戦しているのかもしれません。

■今回の調査の中で気になったのが、問題解決能力です。この調査によれば、「問題解決の道筋が瞬時には明白でなく、応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、科学、または読解のうちの単一の領域だけには存在していない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認知プロセスを用いて、問題に対処し、解決することができる能力」といっています。つまり、問題解決能力をある基準で判定しているのですが、これも一面的な見方に過ぎないということを考えておかなければいけません。(それにしても難しい言い方をしますね。)

■これは大前研一氏の受け売りになってしまうのですが、いまの社会は複雑系と言われるくらい、さまざまな要因が絡み合っています。例えば経済をとってみても、我々が習ったころはミクロ、マクロくらいをいっていましたが、現在はサイバー空間でも経済が動き、ボーダレスでも経済が動き、しかもそれがレバリッジで何倍にも膨れて動いているから、単なるモデル化ではまったく読めなくなっています。

■だから問題解決能力というのは、これまでの指標と同じ見方でいいのかといえばそうではないように思うのです。もっと多元的に見ないといけない。そういう問題解決能力はどう育てればいいのでしょうか。実は、多元的な考え方に基づく教育で成功している国があります。それがフィンランドです。フィンランドは少子化が進み、高齢化、高福祉化し没落の道をたどっていました。ではなぜ、ここまで活性化することができたのでしょうか。じつはその原因が教育改革にあったのです。

■1992年の北欧金融危機以降、フィンランドをはじめとする北欧の国々は、国際的に活躍する企業を作らなければならないという国家的危機意識の下で教育を組み立ててきました。フィンランドでは教員を大学院修士課程修了者のみにしぼり、生徒からの期待に応えられる人材を育てたのです。生徒との関係をしっかり作り、一人一人の可能性をいかに引き出すかに注力していきました。

■フィンランドでは「教える」ことよりも「自ら学ぶ」ということを中心に考えています。ひとつの回答を追うよりも、10人の子どもがいれば、10個の答えがあっていい。大事なのは提起された問題に対して、いかに考え、自分なりの答えを出していくかという過程を何度も実践することにあると考えられています。むしろ生徒一人一人の能力を思い切り引き出すことを考えているのです。これはまさに複雑系の社会においては必要な教育ではないでしょうか。

■文部科学省の調査概要を読むと、明らかに学力は低下していないという主張にたっているように見えます。その態度もいかがなものかと思います。もう少し、現状をしっかり把握するべきでしょう。その上で、もう少し全体から教育を考えてみる必要があると思うのです。これから求められる人材像をしっかり持ち、それを実現する教育方法は何か、むしろ教育家でない人たちが組み立ててみると変革を生み出すことができるのではないでしょうか。

(平成16年12月8日)

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