■国立天文台の縣秀彦助教授らが小学校4年生から6年生までに行ったアンケートの結果、地球は太陽の周りを回っていると解答した生徒が56%にとどまり、42%が天動説を選んだことが話題になりました。この原因が指導要領にあることは、あまり知られていないかもしれません。
■現行指導要領は、3年生で太陽の観察、4年生で月と星の観察があるだけで、何とそこから中学3年生まで天体の勉強は、一切出てこないのです。これについて文部科学省の御手洗次官は会見で「地球の自転や公転についての学習は中学校で、きちんと体系的にすることになっている。」「指導要領の全体の構成を見てほしい」と反論しています。
■中学入試の世界から考えると信じられないようなカリキュラムなのですが、これが現実なのです。なぜこんなことになってしまったかといえば、理科の総授業時間に大きく関わっています。1968年改訂の指導要領では義務教育9年間の理科の授業時間は1418時間ありました。しかし、現行の指導要領では何と640時間しかないのです。半分以下になっているわけですから、その中で何とかやりくりをした結果、繰り返し学習すべき部分がはずされていったのです。
■むしろ、このカリキュラムでよく半分以上の子が地動説と答えたというべきなのでしょうか。太陽の沈む方向について西と答えた生徒も73%はいたということなので、むしろ家庭教育や塾ががんばっているということになるのでしょう。こういう現状を知らないまま、学校に通っていれば何とかなると思ってしまうのは、あまりに危険なことかもしれません。現行指導要領でも確かに義務教育中に学習するのですが、子どもたちが好奇心、関心を抱く分野を提示する時期をここまで遅くしてよいのでしょうか。
■指導要領がこのような進み方をする限り、中学受験を経て私立中学で学習する生徒の知的満足度は公立に比べ、かなり差がでてくるでしょう。このことに関して文部科学省は、根本的な対応をしていません。本来天体は1年に少なくとも1回は繰り返し学習し、十分な定着を図る範囲なのです。これは受験カリキュラムでも議論されることですが、カリキュラムは実際にはスパイラルカリキュラム(重要な範囲について、時期を分けて何回か繰り返すプログラム)の方が生徒の理解度が増します。むしろこの方がゆとり教育なのではないでしょうか。
■受験勉強をし、私立に行くということは、誰もができることではありません。経済的問題にとどまらず、実際に私立中学が少ない地域はたくさんあるのです。その結果として、教育を受ける機会均等が今の日本では失われつつあるというのが私の実感です。今のところ家庭がそれを補う以外に道がないというのは、何か方向が間違っていると思うのです。
(平成16年11月24日)