第43回 スランプ

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■この時期、成績が一時的に下がる子どもがいます。今までできたものができなかったり、ミスが多くなったり。別に勉強量が下がっているわけでもないのに、うまくいかないのです。

■スランプは突然やってきます。しかも、成績が上向いてきたなと思った矢先に起こることが少なくありません。原因は多分に精神的なものです。今まで、特に合格とか不合格とかに意識がいかなかった子どもたちが、結果を意識し始めるからです。「もし、落ちたらどうしよう」という不安が頭をかすめるのです。こんなとき、どうすれば良いでしょうか。

■まず慌ててはいけません。親としては何か手を打ちたいと思って、家庭教師や個別指導をつけたりするのですが、かえって逆効果になることがあります。まず本人の漠然とした不安を取り除くことから始めましょう。友達が合格して、僕が不合格だったら、はずかしいし、みっともないと思うのが子どもです。もしかすると親もそう思っているところがあるかもしれませんが、そんなことはありえないのです。入学試験は試合です。2年近く準備をしてきて、最後に臨む試合です。勝つこともあれば、負けることもあるでしょう。負けるときは、堂々と負ければよく、それを踏まえて、明日、どうするかを考えられるようになればよいのです。

■何校合格しようが、結局、来年4月から通う学校は1校だけです。縁あって入ったのですから、その学校での生活がその子にとってベストになるように、本人も親も努力をすればよいのです。この心構えができていれば、不安は自然になくなります。そして大事なことですが、親も本当に心の底からそう思えるようになれば、子どもたちの気持ちも平常心に帰っていきます。

■そのコミュニケーションができたところで、あとは具体的な勉強法ですが、やさしめの問題を解く練習をすることです。私がよくやっていたのは、その子の力よりやややさしい学校の入試問題を渡して、解いてきてもらう宿題でした。終わったところで、必ずほめます。「なんだ、できるじゃないか。そうだよね。土台、実力が1日やそこらでどこかにいっちゃうなんて、ありえないんだからね。」これを何回か繰り返すと、子どもたちの顔がだんだん明るくなってきます。「うん、なんか、できるようになった気がする」なんて口にするようになったら、スランプは脱しているはずです。

■人間は感情によって、いろいろ左右されます。したがってどんなときも常に積極的な気持ちを持たせていくことが非常に大事なのです。教育は教えることではありません。教育は引き出すことです。いろいろな可能性を子どもたちは持っています。それが引き出されていくためには、気持ちが常に前向きで、失敗や不安に負けないようにすることが必要なのです。

■子どもを育てながら、親もまた勉強をしています。子どもを積極的にするためには、親もまた積極的な心をもっていなければならないことに気がつくのです。そして、それが実践できたとき、この子にはこんなすばらしいところがあったという発見がたくさんあると思います。それが子育ての本当の楽しさではないでしょうか。

(平成14年12月7日)

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