失敗に学ぶ中学受験」カテゴリーアーカイブ

「この問題おもしろいんだ」

 学校別特訓はそれぞれの志望校の過去問の学習が中心になります。
問題を解いてもらい、私が採点して、さらに質問に答えるという個別指導型の授業なのですが、ある子の算数の採点をしていたら、
「この問題おもしろいんだ」
とポツリともらしたのです。

 その問題はなかなか難しい問題なので、その子の力ではなかなか解ききれないだろうと思っていたのですが、半分は正解していました。
「え、違うの」
「うん、違う」
「変だなあ、もう一回やってみる」

 そういってまた、自分の席に帰っていきました。彼の志望校は、現在の彼の成績から考えるとなかなか難しいと思える学校です。でも今日の彼を見ていて、私は強く可能性を感じました。
実際に過去問を解いていると「解けないと合格しない」という妙なプレッシャーを感じます。だから難しい問題にあたると、ネガティブな気持ちになりやすいのです。しかし「この問題、おもしろいんだ」といって何とか解こうとする気持ちは、実際にその子の力を何倍にも引き出します。

 模擬試験で見れば、まだまだ可能性が低いでしょう。しかし、この5ヵ月で一気に数字をひっくり返す子どもたちを私はたくさん見てきました。
積極的な気持ちをいかに引き出すか、これは家庭での勉強でも重要なポイントです。難しい問題でも、解ければ必ず自信になるし、力はついていくのですから、数値に惑わされることなくしっかりと狙っていってください。
ちなみにもう一回持ってきたとき、彼は残り半分の問題を見事に解ききっていました。
「すごいね、大したもんだ」
もちろん、彼は非常に満足して次の問題に向かっていました。

 しかしながら、残念なことに、彼は第一志望に失敗しました。可能性はあったと思うのですが、やはり勤勉さに欠けるところが大きかったと思います。

 彼は第二志望ともいえる学校には合格しましたが、私は、第一志望に入るよりも良かったかもしれないと思いました。というのは、勤勉さに欠ける子を管理する学校ではあったからです。(とはいっても、そのあとも相当苦労したと思います。というのも、彼が勤勉さを身に着けることはなかなか難しかったからでしょうか。)

 入り口として、「おもしろい」という気持ちを持つことは非常に大事です。それで勉強して、しかし「できるようになりたい」と思ってほしいのです。

 こんな問題できるようになったらいいなあ、という気持ち。私はこれが子どもを成長させる源のように思います。そのためには、常日頃、やはり積極的にすることが必要です。だから、ほめる。

 ほめないと、子どもは伸びません。多少図にのるくらいでもいい。それが成長の源になるのは間違いないでしょう。


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与えることの難しさ

私も塾講師生活が長いので、つい教えてしまうことが多いのですが、いまの子どもたちには「与えれば、自分で得ることをしなくなる」という面が顕著に見られます。
ノートを見ていると、図を描くのが下手な子が増えました。なぜ下手なんだろう、と思っていて気が付いたことがあります。いまは子どもたちがプリントやテキストで問題を与えられます。それを解いて解答や解説を読んで理解することが多いのです。先生の解説を聞いてノートをとる時間がもったいないからというわけではないでしょうが、テキストに書いてあることをまた書き写すことをしないから、勢い図を書く機会が減ってしまうのです。

応用問題になればなるほど、自分なりに図を書き直してみる技量が必要になります。速さであれば文意をグラフにすることが解法につながる場合が多いし、立体は別方向から見た図がヒントになるでしょう。

自分で図を書かせることにもう少し時間を割く必要があると思います。私の授業では、ホワイトボードにその場その場で子どもたちに必要だと思われる問題を書き、子どもたちに写して解いてもらうことにしています。いわゆる「白板問題」です。これは当然、その場で問題を作るので指導員にとっては与えられたテキストを教えるよりしんどい作業ですが、その分子どもたちはいろいろな技量が得られるでしょう。

中1が期末の対策のために塾にやってきました。
彼は中高一貫校に通っています。今年の1月までは私が教えていた子ですが、わからないことができたので質問に来たのです。

彼が持ってきたのは、その学校が作った教科書。
説明や問題は書いてあるのですが、その問題の答えも書いてなければ解説もありません。

「この問題は先生が解説してくれたでしょ?」
「はい、そうです」
「そのノートは?」
「ここにあります」
彼は自信をもってノートを差し出しました。
しかし……彼のノートは先生が書いたであろう幾何の図を写しているだけで、肝心の答えは何も書いていない。
「この図を書いてくれたときに、どういう説明だった?」
「え、あ、その……」
つまり彼はそのときは理解したつもりでノートには書かなかった。]

こうなると始末が悪いのです。この幾何の問題は、いろいろな解法があり得るのです。問題は先生がどう教えたか、ですが、ノートもなく、解説・解答もなければどうしようもありません。
結局、複数の解法の説明をし、かつクラスで1人や2人はいるであろう、ノートをきれいにとっている子から情報を取ってくるように指令を出しました。

ノートのとり方がまだ、十分でない。この子はサービスが良い塾から出た生徒なのです(ええ、もちろん私の塾の話です)。
そういう塾では、テキストに答えも解説も載せている。
しかし、この学校の授業はそういうサービスの良さはいっさいありません。

なぜか? 授業を真剣に聴かせるためです。
「与えてしまうと、自分でできるようにはならない」

サービスの悪い授業は、子どもたちをタフに育てるものなのです。

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「解法を覚える」では力がつかない

 授業で子どもに新しい単元の説明をします。
たとえば流水算とはこういう問題だ。相似形というのは、こういう特徴を持っている。
そして一通り理解してもらったら、後は問題をやってもらう。ここからは、教えることはあまり多くなくていいのです。

 次に私がやるのはヒント。しかし、これはある子にとっては自分の解く過程を否定される可能性があるので、聞きたい子だけ聞け、といっています。
そして、答え合わせ。あるいは、できた順に丸付け。
簡単な説明をしますが、プリントにはなるべく、しない。その場で聞いて、メモしてもらう。そして、帰ったら復習です。できなかった問題をやり直す。
ここで大事なことは教えてもらった解き方で解くのではなく、考えて、見つけることです。
解法パターンを覚えていれば点数がとれるという考え方はしないことです。週例テストや月例テストでそういう勉強の仕方をしていると総合の模擬試験のときに、点数がとれません。
だから、あまりパターンで覚える勉強はさせないこと。(たとえ点数が悪くてもです。解法を覚えるというのは、考える力が出てきて、解く過程を省力化するために覚えた方法を使うのです。それがすべてでは力にはなりにくいのです)。

 今の塾の勉強のさせ方は、目の前の試験の点数にこだわりすぎているような気がするのですが、どうでしょうか。

 個別指導や塾の回数を増やしたからといって、子どもが自分で考えなかったら、できるようにはなりません。特に算数は自分で考えなければ、解けない問題が増えるばかりです。ところが塾にしろ、個別指導にしろどんどん解き方を教えられてしまう。もちろん、そういうことも大事でしょうが、しかし、そればかりになって自分で考えなければ、進歩は小さいのです。
だから与えすぎない。むしろ、子どもが好んで算数の問題を解く、おもしろいと思って国語の文章を読むようにしないといけないのです。

自分で勉強ができるようにする、このことはまず中学受験の過程で、子どもが身につけることのできる大きな成果だと思うのです。

自学自習のくせをつけましょう。

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